なぜ二つの餌を使いながら、魚を一匹だけ釣るのでしょうか。
それは、一匹の魚を釣ろうという時、もう一つの餌(サツマイモをこねたもの)を水底に落とせば、別の魚がこれを食べて生き続けることができ、私は次の機会にこの魚を釣ることができるのです。もし、あなたが二つの餌で二匹の魚を釣る、こうして釣り続けると、そこにいる魚は全て釣られてしまい、いなくなってしまいます。
つまり、全てのことには必ず余地を残しておく必要があるのです。遠い未来に目を向けるべきで、目先の欲にとらわれて、全ての魚を釣り上げるようではいけません。
ビジネスにおいても、利益の一部を他人に分ける必要があります。そうしてこそ、お互いにとって良い関係が続くのです。――許文龍
本書『二つの餌で魚を一匹だけ釣る』には、許文龍氏が長年にわたり表してきた語録の最も重要なものを、世渡り、ビジネス、思いやり、自然と芸術の四編に分けて収録した。
本書を読み終えたあなたが、私たちと同様に許文龍氏の考えに共感されたら、ぜひ本書をご家族、ご友人に紹介していただきたい。本書を通じて、より多くの人が一緒に「三百六十度」の考えを持ち、共に楽しく、幸せな人生が送れることを希望する。
作者簡介:
【許文龍】
奇美(CHIMEI)集団の創立者。一九二八年に台南市の運河そばで生まれる。少年時代から、働きながら学校に通う生活を送る。三十一歳で奇美実業股份有限公司を設立、「台湾のアクリルの父」となる。六十三歳で自社をABS樹脂生産で世界一に成長させた。事業を成功させた後には台南市に病院、博物館を建設し、故郷の人々の心身の健康づくりに貢献している。平日は釣り、読書、バイオリン演奏、油絵制作を楽しむ。人々から尊敬され、親しまれている台湾の企業家である。
【林佳龍】
現・台中市長。一九六四年に台北市万華で生まれる。米国イェール大学で政治学博士号を取得。国連大学高等研究所(東京)の研究員を務めた後、台湾に戻り、国立中正大学で教鞭を執る。また台湾智庫(タイワン・シンクタンク)を創立した。これまでに国家安全会議諮問委員、行政院新聞局長、国民大会代表、民進党秘書長(事務局長)、総統府副秘書長(官房副長官)、立法委員(国会議員)を歴任。
作者序
一味違う企業家――許文龍 林佳龍
許文龍氏、ユニークな考えで成功した企業家
許文龍氏が創設した企業「奇美実業」は、世界最大手のプラスチックおよびゴム製品メーカーの一つ。許氏は製造技術の研究・開発に取り組み、また新たなビジネススタイルの創造にも実績を残した。一九九九年には日本経済新聞社から「第四回日経アジア賞(経済発展部門)」を、台湾の企業家として初めて授与された。
経営する企業の規模は大きい。しかし、許氏は自分自身のことを忙しいとは全く感じていない。彼は数千人もの従業員を率いているにもかかわらず、従業員は社内で許氏が会議を開いているのをほとんど見たことがない上、社内で文書を目にする機会もまずない。許氏は常々、人生の目的は幸福、楽しみを追求することにあり、仕事はその手段にすぎないと述べている。
確かに、仕事の中にも楽しみがあり、利益を上げることのほかに、達成感が味わえることはわれわれも知っている。しかし本末転倒してはならないのは、仕事と金儲けだけに熱中し、幸せな生活を送るという初心を忘れてしまうことである。
許氏は、人生には三百六十度があってこそ円満だと考えている。彼は自分の人生を四つの九十度、つまり「仕事」「魚釣り」「音楽と芸術」「公益に従事」に分類している。彼は長年にわたり、毎週二日半だけ出勤するほかは、釣りを楽しみ、友人と一緒に音楽や芸術鑑賞を楽しんできた。また病院、博物館を創設した。彼は自分の興味や感性に基づいて人々を励まし、多くの人の人生をいっそう円満なものにした。
博物館の収蔵品の充実ぶりには驚かされる。博物館の面積は九‧五ヘクタールで、建設には十五億元(台湾ドル)が投じられた。収蔵品は芸術、楽器、兵器、自然史の四大分野に分けられ、兵器、動物標本、西洋美術のいずれをも問わず、アジアで最も豊富で充実した個人博物館の一つとなっている。
特にバイオリンについては、奇美博物館は現在、世界で最も重要な宝庫である。ここには世界でも数少ない百年物の名品が収蔵されているだけでなく、演奏家への楽器の貸し出しも行われている。例えばバイオリニスト林昭亮や曽宇謙、チェロ奏者のヨーヨー・マ(馬友友)やクリスティン・ワレスカといった大家が、奇美博物館から楽器を借りている。「これらの楽器が奏でる素晴らしい音楽を、ぜひ多くの人に聞いてほしい」と許氏は語る。
許氏自身もバイオリンの演奏をたしなむ。親しい友人を招いて自宅でコンサートを開き、楽しむこともある。しかし彼は、バイオリンを集めて自分の物として楽しんでいるわけではなく、収蔵物を全て、博物館がある台南市へ寄贈し、台湾の公共財とした。「これらの貴重な宝物はいずれも人類の共同遺産であり、私個人の所有物ではありません」と語る許氏はまた「私はただ、バイオリンの保管者にすぎません」と自らを評している。
許氏は単なるバイオリンの保管者ではなく、台湾で最も重要な音楽教育の推進者でもある。彼が発起した「奇美芸術奨」は三十年来、若手の芸術家を奨励してきた。すでに多くの芸術家が世界のひのき舞台に登場し、活躍している。
許氏はまた積極的に、現地の小学校に寄付を行い、楽器を購入し、楽団を成立させた。これにより、子供たちは幼いうちから優れた音楽教育を受けることができるようになった。
ある人が許氏に、なぜそこまで尽くすのか、理由を尋ねたことがある。この時に許氏は「私は常に、頑張って儲けたお金をどのように使うか、われわれが人生で追求すべきものは何か、について考えています」と答えた。許氏は、お金は使ってこそお金であるという意識を持つべきだと指摘する。「銀行に預けてあるお金は、倉庫に保管されている原料のようなものであり、完成品ではありませんし、世の人々のために役立つこともありません」と語る許氏だが、彼は儲けたお金の全てを企業の運営に投入することを望まない。それは、彼が「ある企業が永遠に存在することはない。しかし文化は永続する」と考えているからであり、これこそ、彼が各種の文化活動を残所する理由なのである。
美しい人生の実現に向けて努力を続ける企業家の許文龍氏。彼は企業の経営についても新たな考えを示し、多くの若い企業家を啓発している。許氏は日常の会話、あるいは講演会での発言を問わず、常に親しみのある笑顔をたたえ、穏やかな口調や優しい言葉遣いで、一つ、また一つと琴線に触れる話をし、またビジネスを展開する上での、あるいは人と付き合う上での道理について語った。
例えば「共享と共生」、これは許氏の重要な理念の一つである。「共享」とは「共有」であり、ビジネスにおいて、取引を行ってきた相手にも儲けを与え、一緒に努力してきた人とも利潤を共有する。「共生」は、余すところなく平らげてしまうのではなく余地を残し、遠い将来に目を向けることの重要性を示す。魚釣りには二つの餌を用意しておけば、一つの餌で魚が釣れても、別の魚は水の中で餌を食べ、生きながらえることができる。そうすれば、次の機会にはこの魚を釣ることができるわけである。
本書『二つの餌で魚を一匹だけ釣る』には、許文龍氏が長年にわたり表してきた語録の最も重要なものを、世渡り、ビジネス、思いやり、自然と芸術の四編に分けて収録した。
本書を読み終えたあなたが、私たちと同様に許文龍氏の考えに共感されたら、ぜひ本書をご家族、ご友人に紹介していただきたい。本書を通じて、より多くの人が一緒に「三百六十度」の考えを持ち、共に楽しく、幸せな人生が送れることを希望する。
一味違う企業家――許文龍 林佳龍
許文龍氏、ユニークな考えで成功した企業家
許文龍氏が創設した企業「奇美実業」は、世界最大手のプラスチックおよびゴム製品メーカーの一つ。許氏は製造技術の研究・開発に取り組み、また新たなビジネススタイルの創造にも実績を残した。一九九九年には日本経済新聞社から「第四回日経アジア賞(経済発展部門)」を、台湾の企業家として初めて授与された。
経営する企業の規模は大きい。しかし、許氏は自分自身のことを忙しいとは全く感じていない。彼は数千人もの従業員を率いているにもかかわらず、従業員は社内で許氏...
目錄
序文 一味違う企業家――許文龍 ╱ 林佳龍
世渡り
■私はただ工員になりたかっただけである、ポケットに一冊の詩集をしのばせて
■欲しい物が手に入らない? 人生とは本来そういうもの
■感謝の心で毎日を過ごす
■幸せと交換できない財産は毒薬です
■利益の一部を相手に残してこそ、商売を続けることができる
■仕事は手段、楽しく生きることこそが目的
■仕事に夢中になるのは良いが、仕事に縛られてはならない
■問題にぶつかったら、いったん全てをリセットしよう
■お金は使ってこそお金である
■懸命に取り組むのは良いが、幸福を求める初心を忘れるなかれ
■お金は社会に戻すべき、子孫に残すことばかり考えるべきではない
■お金を子供に残すのは、子供の人生のマイナス
■考えてみよう、どれだけの人から援助を受けたかを
■今、満腹ならそれ以上の食物はいらない
■他人には寛大で夫人に冷酷な人は嫌われる
■人の運命の善し悪しは、巨額の財産とは無関係
■大丈夫、どのような環境にあってもあなたは自由に動ける
■プライドを捨てれば、いっそう勇気が湧いてくる
■事業を行う場合、「大」が必ず良いわけではなく、「小」が必ず良くないわけでもない
■永遠に存在する企業はない
■創業の目的に近づきたいのであり、株券に近づきたいのではない
■株を上場した後、投機して株価を吊り上げないというのはあり得ない
■株を買うのは配当を待つことであり、株価が上がるのを待つことではない
■活用できない知識を詰め込むのは命の浪費である
■少年時代は大切、無駄なものを覚える必要はない
■生徒を援助するのであり、学校を援助するのではない
■試験の六十点哲学
■マスが書かれていると、中に文字を書くことしかできない
ビジネス
■経営者はワーカホリックになってはならない
■リーダーは夢を持ち、幸せな労働環境を創造するべし
■お金がある人は、お金がない人に得をさせる
■賃金からコスト低下を進めるのは無能な経営者
■未来が見えない事業なら、それにこだわり続けてはならない
■ビジネスでは、逃げることを学ぶべき
■ビジネスに起伏は付き物
■まず確かめる、そうすれば袋小路に入ることはない
■あなたは私を斬ることができるが、最後には私が勝つ
■従業員から試してみる勇気を奪ってはならない
■小さな局面に小さな打算は無用
■産業を正しく選ぶことが重要
■貸し倒れの経験がない? それは消極的すぎるから
■生産を行うことで誰もが成果を受けることができる
■地上げ屋は何も貢献することがない虚業である
■口と鼻の理論
■少し寛大になれば、敵が戦友に変わる
■従業員が会社にマイナスの影響を及ぼした場合、必ず会社の制度に問題がある
■サプライヤーに親切であれば、あなたの重要な情報提供者となる
■製品を売り込みに来た販売員に、お茶を勧めよう
■報告書を作成しないことで、時間が節約できる
■私は理由を聞くのを好まない、時間の浪費にすぎないからだ
■誰でも自分を守る、あなたの会社の従業員も例外ではない
■誰もが好きな包子(パオズ)を作ることができる、それがあなたの競争力
■多く儲けるのは良いが全部儲けてはならない、お客さまにも還元を
■値下げしてもらう場合でも、相手に儲ける余裕を残すべし
■お金は儲かる時は儲かる、儲からなくても鬼になる必要はない
■会社に必要なのは「管理」ではなく、「経営」である
■リーダーは責任を持たなければならない
■チームを率いる場合、リーダーシップを発揮し、全体を統括するが、細部についてはそれぞれの部門の責任者に任せる
■一人の悪人が九人の善人の中で悪事を働こうとしてもできない
■経営、それは環境への適応である
■最も重要なのはトップではなく、現場で指揮する人である
■本当の「ご主人」は、あなたの商品を買ってくれるお客さま
■「管理」の代償を軽く見てはならない
■「管理されていると感じさせない」ことが、リーダーの最高の境地
■いつも従業員を管理することを考えるのではなく、いかに長所を発揮させるかを考える
■従業員を大事にすればするほど、私自身もますます楽しくなる
■対立していた関係から、利益を分かち合う関係に
■私がうれしければ、皆もうれしい
■最高の製品にはセールスは不要
■ゆっくりと模索することも、一つの貴重な経験である
■習慣、慣例を打ち破る勇気を持とう
■経営者は、他人に利益を譲ることを恐れてはならない
■私が百元儲けたら、あなたには八十元を支払う
■あなたが従業員のことを思えば、従業員もあなたのことを思う
思いやり
■世界平和とは、できる人間ができない人間に利益をもたらすこと
■仕事のために家庭を顧みないようになってはならない
■問題がある従業員は、出来の良くない子供のようなもの
■景気が良くなくても構わない、私の財産を食い尽くせばよい
■あなたの会社の女性従業員は、家では大事な娘さん
■住宅価格は天井知らず、一般庶民が家を買えない国は不正常な社会である
■三個のパンの理論
■お金を得た後
■生活の質の向上が見られない経済成長には、何の意義があるのか?
■文明的な社会の政府は弱者を守るべき
■政府はマネーゲームを重視するべきではない
■投機による株価の吊り上げは投資家にとって悪い知らせ
■私たちの食・衣はもう足りている、これ以上、お金を騙し取る必要はない
■株式市場を救済するのは、大衆のお金で少数の投資家を保護するもの
■引き出し理論
■最も良い政府とは、正義を司り、人民を守ることに責任を持つ政府である
■ネズミの理論、ネズミを棒で打つのは愚かな行為
■組織の階級を多くしてはならない、多ければ多いほど組織は硬化する
■法に頼って治められている社会には、必ず法の目をかいくぐる者がいる。
■より多くの法律を制定しようと考えるのではなく、いかにして多くの人に法律を守らせるかを考えるべき
■管理が行き過ぎると、逆効果を招く
■政府は国家の資源の配分を歪曲してはならない
■経済行為を自然に回帰させ、歪曲を発生させないようにしよう
■玄関を出てきれいな空が見えてこそ、進歩である
自然と芸術
■自然こそ世界、オフィスは世界ではない
■自然の偉大さに触れると、人はおのずと謙虚になる
■大自然にはわれわれの保護はいらない、必要なのは破壊しないこと
■原因を探し、結果を見ない
■良い自然、良い文化、良い伝統を子孫に残そう
■豊かな社会に生きる人は、お金を文化に用いるべき
■音楽会は感動を与えなければならない
■文化活動は皆に見て、聴いて分かってもらえるものを
■博物館は大衆のために存在する
■芸術を鑑賞するには、いたずらに流行を追ってはならない
■貴重な文化資産が台湾にある、世界の耳目を台湾に集めよう
■美術の授業の目的は鑑賞力を育てること
■絵が描けない人に、制作を無理強いしてはならない
■オークションに出品された絵は株券であり、美術ではない
■音楽の授業では歌を歌うべきで、楽理を暗記させるべきではない
■子供には音楽を楽しませるべきで、恐れさせてはならない
■音楽と美術の授業を減らしたのは教育の失敗である
■唯一無二の先住民音楽
■文化は自然の産物、パフォーマンスに頼るべきではない
■あなたは専門バカになっていませんか?
■一枚の名画は株券より価値がある
■五百年たっても、レンブラントはレンブラントである
■二つの魂の出会い
■良いバイオリンは展示するものではなく、聴いてもらうもの
■私はバイオリンの保管者である
附錄 奇美博物館紹介
序文 一味違う企業家――許文龍 ╱ 林佳龍
世渡り
■私はただ工員になりたかっただけである、ポケットに一冊の詩集をしのばせて
■欲しい物が手に入らない? 人生とは本来そういうもの
■感謝の心で毎日を過ごす
■幸せと交換できない財産は毒薬です
■利益の一部を相手に残してこそ、商売を続けることができる
■仕事は手段、楽しく生きることこそが目的
■仕事に夢中になるのは良いが、仕事に縛られてはならない
■問題にぶつかったら、いったん全てをリセットしよう
■お金は使ってこそお金である
■懸命に取り組むのは良いが、幸福を求め...