01 緒論
文・図/蘇宗振・邱垂豐・吳聲舜
(一)沿革
茶は、どのように評価され等級分けされるのだろうか。また、1 杯の茶の良し悪しを、五感を用いてどのように科学的に評価するのだろうか。
歴史的に見れば、宋代には民間で「闘茶」と呼ばれる現在でいうところの茶品評会が行われていた。茶の形、色、香り、味を評価項目として、茶の優劣を争った。この時代には既に、茶を評価するということに意義が見出されていたのである。国家的な基準としては、阮(2002)によると、中華民国の初期の1915 年には浙江省温州市で茶の輸出検査が行われ、民国34 年(1945)に上海、漢口、台湾等の商検局で輸出検査が再開された。民国47 年(1958)には国家茶葉検験法(CNS 1009)が公布された。同法は現在までに4 回改正されており、直近の改正は民国75 年(1986)である。また、民国36 年(1947)に公布された国家茶葉標準(CNS 179)は、民国110 年(2021)までに21 回改定されている(表1-1)。改定理由は以下のとおりである。
1. 農業部茶及び飲料作物改良場は、台湾の特色茶を国際的に広めるため、製造工程によって改めて分類し、規格化を行った。「部分発酵茶」の下位カテゴリーに「条形包種茶」「球形烏龍茶」及び「東方美人茶」の台湾で有名な特色茶を分類し、台湾の特色茶の知名度を向上させることを目的としている。
2. プーアール茶という名称で輸入される茶を巡って近年発生している商品名の認定に関する問題を解決するため、「後発酵茶(プーアール茶あるいは黒茶)」とそのサブカテゴリーを追加した。
良い茶とはどのような茶だろうか。自分の好みに合ってさえいれば、すなわちそれが良い茶である。いわゆる好みに合う合わないというのは、人間の感覚器官と日常の飲食文化の組み合わせで構築される習慣的な印象である。そして、視覚、嗅覚、味覚は人によって異なるため、その人独自の感覚が生み出される。
茶は東洋において5000 年前から飲まれてきた。その長い歴史の中で、茶の品質の等級分けは、官能審査によって行われるのが一般的である。そこでは、専門的な訓練を受けた品評員が、視覚、嗅覚、味覚によって品質の良否を判断する。厳しい訓練プログラムと養成を経て、良好な体力と感覚の感度を維持しつつ、且つ落ち着いた環境であれば、茶の品質は判断することができる。茶の官能審査は、品質を鑑定し等級分けするための重要な方法であり、茶業界でも広く認められている。台湾の茶市場では、時間効率(短時間で判断を行うこと)や人々の嗜好の特徴(茶は飲料であるという観点)に合わせることが求められるため、茶の品質の鑑定に官能審査を用いることは実用的である。国際的にも、茶やコーヒー、ワイン等の品質評価の多くで官能審査は行われている。
(二)官能審査の運用
食物や加工食品の色、香り、味は、多種の複雑な成分で構成されており、単一の化学成分の含有量でその品質の優劣を評価したり、完全に表現したりすることはできない。同様に、加工食品であり嗜好品でもある茶の化学成分は複雑である。測定装置や設備が未だ完全には揃っていない現段階では、茶の形状、色沢、水色、香気、滋味、及び様々な風味の調和やバランスは、人間の感覚器官によって迅速かつ総合的に評価し等級分けすることが、非常に重要で実用的である。茶及飲料作物改良場によれば、官能審査の利点は以下のとおり要約される(廖・楊1994、阮 2002)。
1. 茶の形、色、香り、味の優劣を素早く評価できる。
2. 茶の品質異常を敏感に判断できる。
3. 高額な精密機器を購入する必要がない。簡易な設備のみで行うことができ、業者にとって負担が少ない。
人間の感覚器官を用いて、茶の品質の優劣を評価することは重要な方法である。官能審査は、迅速かつ総合的で正確であり、品評員の豊富な茶学知識(生産環境、気候条件、製茶加工技術等)や評価経験が加わり、茶を品評するのに優れた方法であるといえる。
ただし、人間の感覚細胞は機械ではないため、時間や感測上の限界があり、疲労もしてくる。そのため、品評員によって、あるいは同じ品評員であっても生理的、環境的条件が異なれば、同一の茶に対する評価に差が生じる。したがって、公正・公平・公開な評価を行うためには、明確な基準を設ける必要がある。また、官能審査を行う者は、その評価が信頼できるようになるまで、長期間の訓練と相当な経験を積むことが必要となる。
(三)官能審査の科学的根拠
民国64 年(1975)から全国の茶産地で始まったコンテストでは、このような官能審査を行う専門的人材が重視されている。さらに、産業界(業務用茶、製茶工場、茶商、ドリンクスタンド店)では、仕入れや研究開発で原料の品質及び製品を厳格に管理する必要があり、そのような場においても、官能審査は重要な基本能力となる。コンテストの品評員は、台湾各地の特色茶の水色、香気、滋味、茶殻について正確に理解していなければならない。化学測定装置では複雑な香気や滋味等の成分をまだ総合的に判断できない現状において、信頼性の高い感覚器官を用いることは最良の選択である。その理由は次のとおりである。
1. (医学的、科学的)検証性
官能とは、簡単に言えば、人間の感覚器官の働きである。感覚器官が外界から刺激を受け、それに対応する感覚が生じる。例えば、正常な人間の鼻腔には数百万個の嗅覚受容体があり、およそ10,000 種類の匂いを嗅ぎ分けることができる(Oktar 2003)。味は約50~150 個の味細胞で構成されている味蕾で主に感知される。味細胞の表面には、異なる味物質に結合する味覚受容体があり、これによって様々な味を感知することができる。茶及び飲料作物改良場の研究によると、一般の人でも官能分析によって異なる種類の茶を素早く正確に識別できるが、15 種類の茶の化学成分分析では、緑茶、文山包種茶、烏龍茶、東方美人茶の違いを完全に示すことはできなかった(蔡ほか 2000)。
2. 学習性
学習を通じて、茶の香気と滋味を感じ取る訓練をし、それらを記憶することができる。例えば、鼻腔上部で香気を、舌で味を感じ取り、最後に目視で茶殻の色と芽の様子を観察して硬軟や均一性等を判断する。品評員の養成には、茶学知識の学習と実技試験の他に、ノウハウを習得するための一定期間の実務経験が必要である。茶及び飲料作物改良場は、民国105 年(2016)から茶の官能審査に関する教育の普及推進を開始し、養成体系を確立させている。茶葉感官品評員(茶鑑定士)は初級、中級、中高級、高級、特級の五つに分けられ、各級の筆記試験と実技試験に合格した者には、合格証書が発行される(図1-1)。各級の能力指標は次のとおりである。初級茶葉感官品評員(初級茶鑑定士)は、主に識別感度と茶の種類に関する基礎知識を有し、酸味、甘味、苦味、塩味の4 種の味と茶の種類(緑茶から紅茶まで)を識別することができる。中級茶葉感官品評員(中級茶鑑定士)は、基本的な茶の評価の経験(鑑定杯の扱い、審査用茶の計量・採取、浸出、記録等)があり、茶の種類と品種を識別することができる。中高級茶葉感官品評員(中高級茶鑑定士)は、形状、色沢、混入物の有無、純度、香気と余韻の持続性、滋味と品質、茶殻の開き具合及び均一性等の特性を理解し、さらに各種茶の品質の優劣を鑑定し、自らの力だけで最初の品質評価を行うことができる。高級茶葉感官品評員(高級茶鑑定士)は、一人で茶の品質評価を行うことができ、摘採方法、品種、及び品質の特色を説明することができる。また、品質評価に関する争議に対処することができる。特級茶葉感官品評員(特級茶鑑定士)は、茶の品評に関する総合的な専門知識と技術を有し、独立して品質評価を行うことができる。また、茶の品質特性やそれに影響を与える様々な要因(栽培、製造、摘採季節、産地の海抜、産地等)を分析し、茶の品質と生産効率を高めるための研究や開発、問題解決を行うことができる。実務経験を増やすため、中高級以上の茶葉感官品評員(茶鑑定士)には、各種コンテストの審査員資格を付与している。
3. 規範性
評価用液体の浸出は、一貫性を持たせるため、国際規格ISO3103-2019(E)を基準としており、公平・公正・公開を確保している。また、実際の評価における品質等級分けには、一般的に標準比較法を採用している(蔡 2008)。
(四)今後の発展
現在、世界各国における茶の品質評価や等級分け、価格決定は、官能審査法を用いて行われているが、官能審査の結果は品評員の主観的要因や外部環境要因が大きく影響する。近年、高度な機器分析技術の発展により、茶の成分の組成と含有量を化学測定装置で測定し、茶の色、香り、味の品質を分析することが可能となってきた。今後、スマート型茶品評システムが開発されれば、従来の官能審査と組み合わせることで、茶の品質コントロール及び評価を更に迅速で客観的かつ公正に行うことが可能となるだろう。